日本人の海外旅行先で一番人気なのが台湾です。台湾は、多くの国と同様で90日間はビザ無しで滞在できますが、フィリピン・タイなどのような複数年以上滞在できるリタイアメントビザ制度はありません。従って、合法的に移住したい場合は、法人設立して就労ビザを取得するというのが選択肢の一つです。
なお、科学技術、経済、教育などの特定の分野に従事している人であれば、台湾ゴールドカードという制度の方が手続きも簡単なので、こちらの方をまず検討することをお勧めします。
法人設立→就労ビザでの移住方法の概要
流れ
日本在住の日本人が台湾に法人を設立し、法人の代表者として台湾に移住・就労するケースを考えます。
- (設立代行業者などを使い)日本から台湾法人を設立する
- 同じく日本から、設立した法人経由で台湾労働部に就労許可(就業許可とも)の申請を行い、取得する
- 日本にある台北駐日経済文化代表処に、就労ビザ(居留ビザ)の申請を行い、取得する
- 台湾渡航
- 台湾入国後15日以内に、内政部移民署にて外僑居留証を申請し、取得する
必要な手続きは、以下のサイトを参照して下さい。
外国人就業規制・在留許可、現地人の雇用 | 台湾 – アジア – 国・地域別に見る – ジェトロ
就労許可、就労ビザ、外僑居留証などについては、のちほど説明します。
就労許可取得の条件、必要な資本金など
日本人の台湾法人代表が台湾での就労許可を得るためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 資本金額または登録運営資金が50万台湾ドル(約200万円)以上
- 売上額が300万台湾ドル(約1,198万円)以上
- 輸出入実績が50万米ドル(約5,570万円)以上、またはコミッション収入が20万米ドル(約2,230万円)以上
参考: 公益財団法人日本台湾交流協会の PDF ファイル
3つの条件のいずれか1つ満たせば良いのか、全て満たす必要があるのかは、PDF ファイルの日本語を見ただけだと分かりませんが、以下のページを見る限り、どれか1つ満たせば良いようです。
心配な方は、(3番目の条件は一部の業種にしか当てはまらないので、)1と2、あるいは1と3を満たしておけば安全でしょう。
就労許可更新時の条件も先ほどの PDF ファイルに記載がありますが、以下の通りです。
- 直近1年間あるいは直近3年間の売上高の平均が300万台湾ドル(約1,198万円)以上
- 輸出入実績の平均が50万米ドル(約5,570万円)以上またはコミッション料の平均が20万米ドル(約2,230万円)以上
必要な費用
初期費用
- 法人設立関連
- 業者による設立申請代行費用: 15万円〜25万円程度
- 会社名調査、印鑑作成、会社登記費用: 合計で1万円程度
- 資本金: 約200万円
- ビザ関連
- 業者によるビザ申請代行費用: 5万〜15万円程度
- ビザ費用: 6,900円(シングル)、13,900円(マルチプル)
合計で222〜243万円程度でしょうか。
以下のサイトを参考にしました。
- 台湾進出料金表 – DAIFUKU GLOBAL(大福国際事業有限公司)
- 台湾進出総合サポート 台湾での会社設立はお任せ | 台湾会社設立総合サイト
- 台湾での会社設立・事務所開設・商標登録 費用 – 台湾起業サポート
法人維持費用
社員などはおらず、業務も複雑で無い事を想定しています。
- 月額費用
- 記帳代行、税務: 1万円〜3万円
- 労務: 1万〜3万円
- バーチャルオフィス: 1万円
- 年額費用
- 会計監査: 10万円〜30万円
1年間で46〜114万円程度です。
家賃、生活費
これは場所や家族構成にもよりますが、価格帯としては大雑把に
- 家賃: 台北中心部 ≒ 東京郊外、地方の県庁所在地
- 物価は、日本の2/3程度
という感じですので、日本よりは費用は少なくて済みます。
まとめると初年度350万円程度は欲しい
上に書いたのをまとめると、初年度に268万円〜357万円くらいかかります。これ以外に、現地に渡航する際の飛行機代や引っ越し費用などもあるので、初年度に大体350万円くらいは用意しておきたいところです。
細かい説明、補足
ビザの種類
居留査証、停留査証
上述のジェトロのページによると、台湾の在留資格には以下の3種類があります。
- 居留外国人:居留ビザを有し、滞在期間6カ月以上の者
- 永久居留外国人:永久居留証を有する者
- 停留外国人:停留ビザまたはビザ免除形式で入国し、滞在期間6カ月未満の者
従って、ビザの種類としては以下の3種類(※)です。
- 居留(resident)ビザ: 半年以上の滞在
- 停留(visitor)ビザ: 半年未満の滞在
- 永久居留証: 永住
※: これらとは全く別の仕組みですが、ワーキングホリデービザもあります
そして、居留ビザと停留ビザには、色々な種類があり、その中に就労ビザがあります。主なものを挙げると
- 居留(resident)ビザ
- 就労
- 投資
- 家族
- 就学
- 起業家
- 停留(visitor)ビザ
- 商務
- 観光
- 就学(交換留学、語学留学など)
詳細は、以下のページを参照して下さい。
査証 – 台北駐日経済文化代表処 Taipei Economic and Cultural Representative Office in Japan
就労ビザと就労許可
就労ビザと就労許可はどう違うのでしょうか。上の「流れ」のところに記載した通り、就労許可を得てから就労ビザを申請します。サイトなどによって用語にばらつきがあるので、以下にまとめておきます。
- 「就労許可」のその他の呼び方
- 就業許可
- 労働許可書
- 勞動部函
- 「就労ビザ」のその他の呼び方
- 居留ビザ(就労ビザは、居留ビザの一種なので)
- 工作居留簽證
台湾への他の移住方法
台湾に移住する他の方法としては、主に以下の2つがあります。
- 一定金額を投資して、投資ビザを取得
- 台湾で新規性のある事業を立ち上げて、起業家ビザを取得
どちらも、他国でよく見られる一般的な投資ビザ・起業家ビザです。以下のページに簡潔にまとまっていました。
法人設立の手順
法人設立の手順は、ここで細かく書くよりは、以下のページを参照してもらえればと思います。
また、法人設立に当たっての注意点などは、以下のファイルを参照して下さい。
台南市政府経済発展局: 台南投資を成功に導くには
税金関連
台湾に法人を設立して台湾に移住するのであれば、台湾国内でほぼ完結するので、税金関連はそんなに面倒では無いと思います。台湾の税制の概要については、以下のページを参照して下さい。
税制 | 台湾 – アジア – 国・地域別に見る – ジェトロ
日本からも収入がある場合(日本法人からの役員報酬、日本の不動産の家賃収入など)は、少し複雑になってきます。役員報酬などに関しては、以前記事を書きましたので、そちらを参照して下さい。
なお、日本と台湾は、2015年になって租税条約が結ばれ、二重課税となる状況は解消されたようです。租税条約の詳細は、以下のファイルを参照して下さい。
所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための公益財団法人交流協会と亜東関係協会との間の取決め
台湾の会社法関連
台湾の会社は以下の4種類があります。
- 合名会社
- 有限会社
- 合資会社
- 株式会社
それぞれに違いに関しては、日本台湾協会の以下の資料をご参照下さい。
また、台湾の会社では
- 董事、董事長
- 経理人、経理長
といった役職が出てきますが、それらの違いに関しては、以下のページが参考になります。
台湾の株式会社における董事長と総経理の違い | やまラボ 山口法務研究所|台湾中国法務を得意とする弁護士 山口 智寛
この2つの役職は兼任できます。日本で言う代表取締役CEOのようなものです。
今回紹介した、法人設立をしての台湾移住は、台湾法人の経理人(兼董事長)となり、就労ビザを取得するというものです。(経理人は会社運営の実務を行う役職であり、台湾に在住する正当な理由があるため、就労ビザが取れるという理屈だと思います。)
まとめ
台湾で法人を設立しての移住は、他の国よりも少ない金額で実現できそうです。
台湾は、日本人にとって人気の旅行先ですし、文化的にも比較的近いため、移住先として検討するに値すると思います。
一方、マイナス面は少ないながらもいくつか挙げられます。台湾は英語圏では無いため、子供の英語力が十分身に付かない可能性もあります。また、子供の年齢によっては日本語力の維持・向上にも気を配る必要があります。その他、運転マナーが悪い、外食中心の文化、などといった細かいマイナス面もあります。
とはいえ、総合的には治安も良く親日で物価も日本よりは少し安いので、快適に暮らせる可能性が高いです。