先日、マレーシア法人を使っての移住について記事を書きました。
その時に、マレーシアには「ラブアン法人」という仕組みがあることも少し触れましたが、今回はそのラブアン法人を使っての移住について書いてみます。
ラブアン法人とは
マレーシアにあるラブアン島は経済特区となっているのですが、そこでの法人設立は通常のマレーシア法人とは大きく異なっており、以下の特徴があります。
- 外国人1人だけでも設立可能
- 就労ビザ発行も可能
- ラブアン島以外にも、西マレーシア(クアラルンプール含む)に居住可能
- マレーシア法人に比べて手続きが比較的簡単
- 条件を満たせば(※)、法人税率は3%
- 法人設立の手続きがマレーシア法人に比べて簡単
- マレーシア国内との取引、リンギットでの決済は不可
※: 業種の制限やラブアン島に実体がある必要があるため、3%の優遇税制を受けられる人はあまり多くないと思います。
なお、ここ2年くらいでラブアン法人に関する制度が大きく変わっているようで、今後は若干不透明です。
ラブアン法人を使ってマレーシアに移住する方法
概要
基本的には、マレーシア法人の場合と同様で、
- ラブアン法人を設立する
- 法人の役員に対する就労ビザを申請する
という2段階になります。
大まかな流れはマレーシア法人と一緒ですが、ラブアン法人の就労ビザ発行はマレーシア法人とは全く別の制度です。
前提
本記事では以下の前提で話を進めます。
- ラブアン法人を設立
- インターネット上で完結可能な業種(IT、デザイン、コンサルティングなど)
- 優遇税制(3%)の対象では無い
- 自分自身が法人の代表者として移住(最初は社員は雇わない)
- 秘書役・会計事務所などは、割高な日系の会社では無く現地の会社を使用
- クアラルンプールで自宅を借りる
- ラブアン法人の就労ビザの場合、居住地はラブアン島に限定されない
就労ビザの概要
お金の話に入る前に、ラブアン法人の就労ビザの概要について記載します。前述の通りマレーシア法人とは全く異なる制度ですが、内容としては似ています。
- 有効期間は2年間
- 更新は可能
- 滞在日数の義務はない
- マレーシア法人のビザに比べると、比較的取りやすい
必要なお金
必要なお金は、マレーシア法人の場合と似ています。シンガポールなどのように生活費は高くありませんが、法人の年間の維持費はそれなりにかかりますので、移住後のお金も気にする必要があります。
この方法で移住するために必要となるお金としては、以下の通りです。
- 初期費用: 会社設立費用等
- 毎年の維持費
- 法人維持費用
- 家賃
- 自身への給料
実際にどれ位かかるかを計算してみます。
必要なお金を大まかに計算
ラブアン法人の設立をサポートしてくれる会社は(マレーシア法人ほどではありませんが)比較的多くあります。今回も、主に以下のサイトを中心に複数のサイトを参考にしました。
法人設立関連費用
設立時に必要な金額は以下の通りです。
- 法人設立サポート会社の費用 → 3,000ドル(約33万円)〜7000ドル(約76万円)
- 業者によってかなり幅がある
- 資本金 → 約350万円〜
- 資本金1ドルで法人設立自体は出来るが、就労ビザを申請する場合には多くする必要がある
- 業者によって、必要となる金額は違った認識を持っているもよう
- ビザ取得費用(業者によって異なる)
- 1名当たり2,500ドル(約27万円)
- 扶養家族はその半額くらい
- 家族4人で、2,500ドル + 1,250ドル x 3 = 6,250ドル(約68万円)
合計すると、約450万円〜(資本金を除くと約100万円〜)。
法人の維持費用
複数のサイト・業者の情報をまとめました。
- 会社秘書役 → 約30万円/年
- レンタルオフィス(登記住所)費用 → 約12万円/年
- 就労ビザを申請する場合は、オフィス設置は必須
- クアラルンプールに住む前提なので、ラブアン島にレンタルオフィスを借りる
- 会計・税務費用 → 約30万円/年
- 法人年間登録料 → 800ドル/年(約9万円)
合計で約80万円程度です。最安値を攻めればもう少し安くなる可能性はありますし、業務量・内容によっては、会計事務所に支払う金額がもう少し高くなる場合もあります。
これ以外に法人税などもかかりますが、それは日本の法人でも同様ですので省略します。
家賃
ここは、マレーシア法人を設立する場合と同様で、クアラルンプールで考えます。
場所・間取りによって大きく変わりますが、中心部に近い場合は、東京でいうと23区の山手線外、あるいは多摩地区と同程度で、おおむね以下の通りとしておきましょう。
- 単身者: 月7万円〜15万円
- 家族4人: 月10万〜20万円
自身への給料
マレーシア法人の場合と違い、就労ビザを取得するのに必要な最低給与額の情報はあまり見当たらなかったのですが、マレーシア法人と同様でRM10,000(26万円)/月以上としておきましょう。年間で320万円程度です。
その他
他の国への移住と同様に、引っ越し費用、前家賃なども必要です。ここも大雑把に見積もって、約100万円としておきましょう。
他の方法との比較
(今のところ)就労ビザの取得は容易
マレーシア法人の場合、就労ビザの取得はかなり厳しくなっていると書きましたが、今のところラブアン法人は、就労ビザの取得はそこまで厳しくありません。
また、前述の通り、ラブアン法人の就労ビザでクアラルンプールを含む西マレーシアに居住可能ですので、移住目的であればマレーシア法人よりはラブアン法人の方が適しています。
ただ、ラブアン法人の就労ビザでラブアン島以外(クアラルンプールなど)に住むのは、若干グレーなので、対策として、ラブアン島内に(法人のレンタルオフィスとは別に)居住用の住所を借りるという方法もあります。
MM2H は就労は不可だが実際は・・・
MM2H では就労は出来ませんが、実態としては以下のような事をやっている人も結構多そうです。
- ラブアン法人を設立する
- MM2H でマレーシアに居住しているが、日本居住の取締役という建前で法人を運営している
オフィス・店舗が要らない業種、あるいはマレーシアにオフィス・店舗があっても自分自身がそこに立つことは無ければ、(少し黒目のグレーですが)こういう方法でも法人を運営することが出来ます。
その他の注意点
制度が大きく変わる可能性がある
ラブアン法人の制度は、ここ2年くらいで大きく変わっており、今後も変わる可能性が大いにあります。
従って、就労ビザの審査が厳しくなる可能性もあります。当面は就労ビザでマレーシアに移住するとしても、MM2H 取得の準備をするなど、何かあったときに回避策を考えておいた方が良さそうです。
3%の優遇税制の適用は厳しい
本サイトは移住のための情報を扱うものなので、税金に関しては本題ではありませんが、一応記載しておきます。
以前は、節税を目的としてラブアン法人を設立する方が多かったようで、優遇税制を受けるために実体要件を満たす必要がある、といったページも多く見られます。
ただ、最近の制度変更で、多くの業種がそもそも優遇税制の対象外となったようで、実体要件を満たしていようがいまいが、マレーシア法人と同様の法人税率24%が適用されるようです。
まとめ
考慮すべき金額=初期費用+維持費
まとめると必要な金額は以下の通りです。
- 初期費用
- 法人設立費用: 約33万円〜約76万円
- 資本金: 約350万円
- ビザ取得費用: 約27万円(自分1人)〜68万円(夫婦と子供2人)
- 更新の度に同じくらいの金額がかかる
- 毎年の維持費
- 法人の維持費: 約80万円/年
- 家賃: 約300万円/年(○)
- 自身への給与: 約320万円/年〜(○)
- その他、引っ越し費用、前家賃など: 約100万円
初期費用は約510万円です(資本金350万円+法人設立33万円+ビザ取得27万円+引っ越し等100万円)。資本金は手元に残るお金ですが。
次に毎年の維持費ですが、○の部分は、日本でも同様のお金を支払っていたと思います。シンガポール移住と異なり、○の部分は基本的にはマレーシアより日本の方が高いか同じくらいと思います。従って、維持費としては○が付いていない部分、つまり法人の維持費の年間80万円のみを考慮すれば良いです。
後は、2年に1度ビザの更新があるので、毎年に直すと約14万円〜34万円程度です。
以上を合計すると、毎年の維持費は約94万円〜114万円、少し余裕を見てざっくり毎年120万円と見ておけば良いと思います。
まとめます。
- 初期費用: 約510万円
- 資本金約350万円を含む
- 毎年の費用: 約120万円
- 自身の給与、個人所得税、家賃、生活費などは含まず
が、マレーシア移住に必要な大まかな費用です。
この方法を取るべき人
以下の条件に当てはまる人なら、ラブアン法人でのマレーシア移住が適していると思います。
- マレーシアに比較的簡単な手続きで移住したい
- 子供の教育も含む
- 日本で既にフリーランス・会社をやっている
以下のような人は、他の方法が良いと思います。
- マレーシア国内でもビジネスを行いたい → マレーシア法人
- 純粋にマレーシアに長期で(※)住みたい(リタイア等) → MM2H
- 日本の会社の仕事をしつつマレーシアに住みたい
- 長期 → MM2H
- 語学学校にも通いたい → Student Pass
※: ラブアン法人は、今後制度が大きく変わる可能性があるため、長期滞在の場合には MM2H の取得も選択肢として考慮すべきだと思います。