EU 各国に5年住むと、EU 長期居住者の申請が可能

今までにEU各国のビザをいくつか紹介してきましたが、それらの記事の中で「5年間滞在すると永住権の申請が可能」というような事を書きました。それらは、各国個別にバラバラに決めた制度では無く、「EU理事会指令2003/109/EC(長期居住者指令)」に基づいて EU 加盟各国が制度化したものです。

今回は、その「EU 長期居住者」について書いていきます。

制度の背景

EU 各国は当たり前ですがそれぞれ独立した国家で、ビザ・永住権・市民権・移民関連の政策なども国によって独自に制定されています。(※)

※: 金融政策や関税等、各国独自に決められないものもあります。

ただ、各国がバラバラに制度を決めてしまうと、EU 全体として統一感が無くなったり色々不都合が生じたりするため、欧州議会・理事会が「指令」を決議し、各国がそれに従って法制化をするということが良くあります。

今回の「EU 長期居住者」も、前述の通り「EU理事会指令2003/109/EC(長期居住者指令)」に基づいて EU 加盟各国が制度化したものです。

EU理事会指令2003/109/EC(長期居住者指令)の原文は→ こちら

ちなみに、長期居住者以外にも、労働ビザ・滞在許可に関する指令(こちらのページを参照)も存在します。

EU 各国のビザ・永住権の制度が似ているのはこうした理由によります。

制度概要

  • 国によって制度は若干異なる
  • 本制度を申請する国に5年以上滞在していることが条件(詳細は「取得の条件」の項を参照)
  • EU市民とほぼ同等の権利を得られる(詳細は「出来る事」の項を参照)
  • 有効期限は最低でも5年
    • 更新可能(自動更新の場合が多い)

英語ですが、Wikipedia にも情報があります。

Long-term resident (European Union) – Wikipedia

取得の条件

制度の詳しい内容は前述の「EU理事会指令2003/109/EC(長期居住者指令)」を読んで頂くのが一番確実ですが、以下の日本語記事がわかりやすくまとめていましたので、そこから抜粋しつつ説明します。

第45回 “ダン岡崎”の一口アドバイス :EU長期居住者(long-term resident EC)になって好きな国に住みませんか? | 海外投資家ビザ・海外移住サポートのアエルワールド

基本

  1. EU域外の国民が対象で、EU長期居住者資格を申請希望する国に、合法的かつ継続的に最低5年間居住していること
  2. 自身の生活を支えるための経済的資力を持つこと。扶養家族がいる場合は、彼らの生活を支えられる十分な経済的資力を持っていること
  3. EU長期居住者を申請するEU加盟国の言語を十分に身に着けていること
  4. EU長期居住者を申請するEU加盟国の法制度・社会システム・生活方法について、少なくても基本的な知識を身に着けていること
  5. 自身と家族からなる所帯のために十分な居住空間をもっていること

年数について

「5年間」の具体的な定義ですが、「過去5年間で、EU長期居住者を申請する国以外に連続して滞在した期間が6か月未満、また合計して10カ月未満であること」です。

例えば、日本への帰省は毎年1回・それぞれ1ヶ月ずつでしたら合計で5ヶ月なので大丈夫ですが、毎年2ヶ月ずつ帰省していると10ヶ月になってしまうのでアウトです。

また、学生ビザでの滞在期間は、1/2として数えます。例えば、学生として4年住んでいても、2年間として数えます。従って、4年間学生をしたあと、労働ビザで3年間働くとかしないと、EU長期居住者の申請が出来ません。

言語

条件の1つに「言語を十分に身に着けていること」というのがあります。EU 長期居住者の制度がある国で英語が公用語のところはマルタのみです。従って、基本的には現地の言語を身につける必要があります。

例えばドイツですと B1 レベルが必要なようです。B1 は6つのレベルの下から3番目で、日常会話+αといったところでしょうか。簡単とは言えませんが、5年間住んでいる間に学校に通うなどすれば、若い人で無くても十分到達可能なレベルだと思います。

EU 長期居住者が出来る事

前述の指令では、EU長期居住者に対しては「EU市民が享受するものとほぼ同等の権利を付与されるべきである」としていますので、選挙権などの一部の権利以外は全て得られると考えて良いと思います。具体的には

  • EU 内の他国への移住
  • 健康保険への加入
  • 年金への加入
  • 就労
  • 就学
  • 投資

あたりは、メリットが大きいと思います。一番最初の「EU 内の他国への移住」が特に重要だと思います。例えば、ドイツに5年間滞在してEU 長期居住者となると、フランス、イタリア、スペインなど、他の EU 諸国にも新規でのビザ取得無しで滞在可能となります。

話は変わりますが、年金に関しては、日本と各国で「社会保障協定」を結んでいることが多く、年金の二重払いなどが発生しないようになっています。

各国個別の話

制度導入国

このEU 長期居住者の制度ですが、デンマークとアイルランドを除くEU加盟の25か国が参加しています(前述のページより)。

国による違い

何回か触れた通り、「EU 長期居住者」の制度は、「EU理事会指令2003/109/EC(長期居住者指令)」に基づいて各国が法制化したものですので、国によって細かい内容は異なっています。

例えば、取得の条件の1つ「合法的かつ継続的に最低5年間居住していること」ですが、ドイツでは「年金加入後5年間」となっています。従って、滞在許可を取得しても、年金加入の手続きが遅れると、その分「EU 長期居住者」の申請が可能となる時期が遅くなります。

まとめ

EU 各国に合法的に5年間住むことで、「EU 長期居住者」という永住権の申請が可能となります。国によって細かい点で異なりますが、大枠では同じですので、EU 各国への移住を考えている方にとっては、5年というのが一つの目安となると思います。

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「EU 各国に5年住むと、EU 長期居住者の申請が可能」への2件のフィードバック

  1. 最近海外移住をすすめるサイトで、どこか一つの国の永住権を取得すれば他のEUに引っ越したりできる、と書いてあるのをよく見ます。それだと各国でそれぞれ永住権を出した意味がありません。
    それを間違いだと教えてあげたのに無視ですよ。
    EU長期居住権のことを知らない人なんでしょうね。

    返信
    • コメントありがとうございます。
      海外移住関係のサイトは誤りや違法な行為を勧めるところも結構ありますね。
      本サイトではなるべく正確な情報を伝えるように努めておりますが、もし間違いなどを見つけた際にはコメント頂ければと思います。

      返信

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