海外在住日本法人役員と税金

以前、海外在住フリーランスの税金に関わる話を書きました。会社役員の場合はフリーランスと少し事情が異なりますので、今回新たに記事を書くことにしました。

以下の記事を事前に読んでから本記事を読んで頂くと、違いが分かって良いと思います。

前提

対象読者

本記事は、以下の条件を満たす人を対象とします。

  • 日本法人の役員(社長など)
  • 海外に居住している(ステータスは問わない。ビザ無しも含む)
  • 主にパソコンを使った仕事をしている
  • 顧客は、居住国の会社ではない

例えば、日本のお客様のウェブサイト構築・運用などの仕事を行っている会社の役員が、マレーシアにビザ無しで長期滞在している(visa run)、といったものです。

説明する税金の種類

「税金」と言っても色々ありますが、本記事では以下のものについて説明します。

  • 住民税
  • 国民年金・国民健康保険(正確には税金ではありませんが)
  • 社会保険
  • 所得税

その中でも、特に「所得税」に関して詳しく説明します。

免責等

私は税理士ではありません。私の顧問税理士やインターネット上の税理士さんの意見など、専門家の意見を参考に、なるべく正確な内容を記述するよう努めていますが、内容の正確性などに関しては一切保証出来ません。

また、私は税理士では無いので、この件に関する質問・相談にはお答えできません。(税務相談は、税理士の独占業務のため。)

以下、本題に入ります。

基本

住民税(フリーランスと同じ)

住民税の場合は簡単です。

  • 国内に住民票がある → 住民税の納税義務がある
  • 住民票を抜いている → 住民税の納税義務は無い

国民年金・国民健康保険(フリーランスと同じ)

住民税の場合と同じような感じです。

  • 国内に住民票がある → 国民年金・国保の加入義務がある
  • 住民票を抜いている → 国民年金・国保の加入義務は無い

ただし、国民年金は、住民票を抜いていても任意加入できます。

これも、フリーランスと同じです。

社会保険: 介護保険以外は払う必要あり

実は、会社役員が国民年金・国民健康保険に入るのは基本的にはダメで、健康保険、厚生年金に加入する必要があります。

ちなみに、広義の社会保険とは、年金保険、医療保険、介護保険、雇用保険、労災保険を指すようですが、会社役員であればそもそも雇用保険、労災保険は対象外です。従って、

  • 健康保険
  • 厚生年金
  • 介護保険

について書きます。

結論から言うと、以下の通りになるようです。

  • 健康保険、厚生年金は通常通り支払う
  • 介護保険は「介護保険適用除外等該当・非該当届」を提出すれば、払う必要は無い

詳細は以下のページを参照して下さい。

海外へ転勤若しくは転職または海外から帰国したときの手続き|日本年金機構

以上が社会保険の原則ですが、色々細かい話があるので、詳しくは後ろの方の「社会保障協定」の項を参照して下さい。

所得税

国内では20.42%の源泉分離課税

法人の役員の場合、フリーランスと異なり、所得税については割と簡単です。

居住者だろうと無かろうと、日本法人から得た役員報酬は、源泉徴収されます。以下、国税庁のページより抜粋します。

内国法人(本店又は主な事務所が日本国内にある法人をいいます。)の役員として国外で勤務した場合には、その給与は、日本国内で生じたものとして、支払を受ける際に20.42%(所得税20%、復興特別所得税0.42%)の税率で源泉徴収されます。

No.1929 海外に勤務する法人の役員などに対する給与の支払いと税務|国税庁

この20.42%の所得税は源泉分離課税です。以下のページにある通り、確定申告をして他の所得と通算することは出来ません。

【解説】非居住者への役員報酬 | 早起き税理士・会計士の「本業ブログ」 by 船戸明会計事務所

源泉分離課税の説明は、以下を参照して下さい。

No.2230 源泉分離課税制度|所得税|国税庁

現地でも課税されるかどうかは居住国による

では、所得税がこの20.42%で完結するかどうかは、住んでいる国によります。

日本を含めた多くの国では「全世界所得課税方式」を採用しており、日本で発生した所得であろうと、その居住国で税金を支払う必要があるというものです。詳しくは、以下のページが参考になります。

国際的な個人所得税の課税方式 | 税理士法人ディレクション

従って、そうした国に居住している場合、日本で発生した役員報酬に対して、その国の所得税がかかります。ただ、そうすると日本と居住国の両方で所得税が課税されるという二重課税になってしまうので、「外国税額控除」制度を使って二重課税分を控除します。以下のページの説明が分かりやすいと思います。

海外勤務者の給料に関する取扱いを分かり易く解説! – 大阪の会計(税理士事務所)|中央会計株式会社

いくつかの国、例えばシンガポールは、「全世界所得課税方式」ではありませんので、日本法人の役員報酬は現地での納税の必要はありません。

【シンガポールの所得税】居住者判定で税金が変わります。役員報酬の場合は特別な規定も。 | あじあ

細かい点

役員、執行役員、みなし役員、使用人兼務役員

本ブログを読んでいる人の多くは、海外移住をするかを自分で考えて決める立場の人だと思うので、具体的には

  • フリーランス
  • 法人の代表

などが多いかなと思います。

フリーランスに関しては、以前記事を書きましたのでそちらを参照してもらうとして、本記事は日本法人の役員が対象の記事ですが、紛らわしい・扱いが微妙なものとして執行役員、みなし役員、使用人兼務役員というものがあります。

執行役員は基本的には使用人

執行役員は、基本的には使用人(≒従業員)であり、税金に関しては普通の会社員と同じです。従って、法人の役員とは扱いが異なりますので注意が必要です。以下のページがわかりやすく説明してあります。

税務情報 | 東京 日本橋にある税理士法人 おおたか

みなし役員は役員と同様?

みなし役員は、例えば取締役にはなっていない相談役や顧問だが、実際には経営に関与している人、などがあります。詳細な定義は、以下のページの「1以外の者で次のいずれかに当たるもの」のところを参照して下さい。

No.5200 役員の範囲|国税庁

みなし役員の報酬は役員と同様、給与では無く役員報酬と同じ扱いになります。ただし、以下のページによると、非居住者の場合に源泉分離課税される役員報酬の対象ではないと書かれています。

非居住者のみなし役員に対する報酬は国内源泉の対象となるかの相談事例 | 公益財団法人日本税務研究センター

一方、以下の PDF ファイルでは、源泉徴収されるように書かれています。

【国際税務の相談室】所得税・日米租税条約米国居住者が内国法人のみなし役員に該当する場合の課税関係

みなし役員に該当する方で海外移住を計画する人は特に、国際税務に詳しい税理士等の専門家に確認する必要があると思います。

使用人兼務役員は使用人扱い

使用人兼務役員が何なのかというのは名前から大体想像つくかと思いますが、役員ではあるけど、通常の従業員と同じように働いている人です。取締役だけど、会社の立場としては部長だとかです。以下のページが分かりやすかったです。

使用人兼務役員とは?役員でありながら賞与の支給が可能! | 千葉県船橋市、市川市、浦安市の税理士 西船橋駅徒歩2分の酒居会計事務所の税金ブログ

非居住者の使用人兼務役員に対する所得税の扱いは、通常の社員と同様です。

海外勤務役員所得税

現地で法人税等の課税を受ける可能性?

以下のような情報もありました。

その取締役がその居住国で会社の事業のために継続的な取引を行うと、内国法人がその国に恒久的施設(支店など事業を行うための固定的な場所)を有していると判定され、現地で法人税等の課税を受ける可能性が考えられます。

国外にいる取締役と日本の税務 | 山口剛史 税理士事務所

現地で住居とは別に仕事場を構えてたりすると認定される可能性があるのかもしれません。

社会保障協定

海外に移住した後、日本での国民年金のようなものに加入させられる場合があります。一方、日本法人役員の場合は、健康保険、厚生年金を支払う必要があり、二重課税のような状態となってしまいます。こうした状況などに対応するために、日本と海外20カ国(2021年6月24日現在)では「社会保障協定」というのを締結しています。

社会保障協定|日本年金機構

対象国であれば、大雑把に言うと5年以内の滞在なら現地の社会保険の加入は免除、5年超の滞在なら日本の社会保険の加入は免除、となるようです。

社会保障協定を締結していない国に在住する場合は、現地の社会保障制度に従うことになります。現地に日本の国民年金のような強制加入のものがあれば入らざるを得ません。とは言え、年金というのは基本的には後で返ってくるものですので(※)、2箇所で加入するのが一概に悪いとも言えません。

※: 賦課方式、積み立て方式の違いや細かい話は置いておきます。

年金に関する所得税

上の方に書いた所得税の話は役員報酬に関するものなので、年金となるとまた話は変わってきます。具体的には、租税条約の有無、その内容によって日本での源泉徴収の有無が決まり、また、現地の税金関係の法律により、海外の年金に課税されるかどうかが変わってきます。

従って、以下の4パターンがありうると言うことです。

  • 日本で源泉徴収される(役員報酬とほぼ同じ)
  • 日本で源泉徴収されないが、現地で所得税がかかる
  • 日本で源泉徴収されず、現地でも所得税がかからない
  • 日本で源泉徴収されて、現地でも所得税がかかる

まとめ

記事を書いてみて改めて思ったのは、国際税務は複雑だと言うことです。

税金・社会保障は、どの国にとっても一大事なので、何としても取りっぱぐれないように頑張っています。そのため、ぼーっとしていると二重課税や二重加入が発生します。一方、複雑さ故に申告漏れが発生することも考えられます。

海外移住、特に長期移住の際には、必ず専門家に相談することをお勧めします。

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