つい先日、ウクライナの投資永住権について記事を書きましたが、IT技術者向けであれば比較的簡単に永住権が取れそうなので、調べてまとめてみました。
日本語だと、以下の記事を書いている柴田裕史さんという方が発信している情報(及びそれを参照している)が大半なので、英語のウェブサイトやウクライナの法律事務所に問い合わせた内容なども含めてまとめます。
〖速報 〗ウクライナ、日本人含む外国人ITスペシャリスト向けに永住権を発行することを決定! 柴田裕史:隠れたIT大国 ウクライナ:オルタナティブ・ブログ
概要
- 10年間有効、更新可能
- 就労可能
- ウクライナでの滞在義務無し
- 家族も同行可能
- IT 技術者が対象(詳細は後述)
- フリーランスでも取得可能
- ウクライナ企業との契約などは不要
- 年間で約5,000人の枠が定められている
- フリーランスでも取得可能
制度の概要は、以下の公式サイトを見て頂くのが良いと思います。
Quotas for foreign ІТ specialists
取得の条件
職種によって細かい部分は異なりますので、主要なものを抜き出します。
- 必須の条件
- IT系の業務経験3年以上
- “Additional” の条件
- IT関連の学位(※1、※2)
- 関連職種による前年の収入が$24,000(約265万円)相当以上
- 関連分野での MIT の学位(※3)
“Additional” の条件ですが、最初の2つを満たしておけば問題無さそうです。
以下、補足事項です。
- ※1: higher education としか書かれていませんが、他のサイトを見る限り、(修士などではなく)学部卒で大丈夫そうです。
- ※2: ただし、CTO、manager の枠で応募する場合は、修士以上が必要なようです。
- ※3: 「一流大学の学位は優遇しますよ」程度の意味合いだと思います。実際、英語のサイトなどを見ても、この条件についてはほとんど触れられていません。
詳細は、以下のページに記載があります(上述の公式サイトからリンクがあります)。
Qualification requirements – Google ドキュメント
永住権取得方法
流れ
- 必要書類を集める
- 移住許可(Immigration Permit)を申請(取得までに最長で1年間)
- 取得場所
- 日本にいる場合は大使館か領事館にて
- ウクライナ国内にいる場合は移民局(State Migration Service)にて
- 発行までは通常は数ヶ月〜半年程度、最長で1年かかります
- ウクライナ国内で申請した方が早いようです
- 取得場所
- D visa(長期査証)を取得し、ウクライナに渡航
- 移民局にて永住権(Permanent Residence Permit)を申請・取得: 15営業日
- ウクライナ国外から渡航してきた場合は、渡航後5営業日以内に申請する
- 移民カード (Permanent Resident Card、身分証明書)を取得
- 家族の永住権を申請・取得
必要な書類
移住許可(Immigration Permit)
- パスポート
- パスポートサイズの写真3枚
- 住所を証明する書類
- 無犯罪証明書
- 健康診断の結果
- 業務経験を証明する書類
- 大学の卒業証書
- 家族構成が分かるもの(戸籍謄本等、家族も申請する場合のみ)
証明書類はウクライナ語への翻訳が必要です。詳細は以下のページを参照して下さい。
Obtaining immigration permit :: State Migration Service of Ukraine
D visa (長期滞在査証)
- パスポート
- 申請書類
- 移住許可(Immigration Permit)のコピー
- 銀行の残高証明書(日本円)
- 入国予定日からの健康保険90日間
永住権(Permanent Residence Permit)
- パスポート及び D visa
- 移住許可(Immigration Permit)
必要な費用
- 取得にかかる初期費用
- 業者の手数料: 10万円〜20万円程度
- 書類の取得、翻訳、アポスティーユ: 5万〜10万円程度
- 渡航 x 2回、滞在費 x (10+15)日: 50万円程度(※)
- その他の初期費用
- 引っ越し費用、住居が決まるまでの滞在費: 100万円程度(※)
※: かなり大雑把に出しています
初期費用として200万円もあればおつりが来ると思います。
詳細・補足
ビザの種類
ウクライナのビザの種類は、以下のページに記載があります。
Visa information | Ministry of Foreign Affairs of Ukraine
永住権取得のためにウクライナに渡航する際には、90日間有効な D visa が必要です。
ウクライナへの旅行などは、ビザ無しで問題無いのですが、永住権の取得の際には D visa が必要のようです。(永住権以外の場合も同様のようです。)
ビザと滞在許可
上の方の「流れ」の項で、D visa、移住許可(Immigration Permit)、永住権(Permanent Residence Permit)という3つの似たようなものが出てきましたが、それぞれの大まかな説明としては以下の通りです。
- D visa: ウクライナへの入国、90日以内の滞在に必要。D visa で入国し、滞在許可を取得する
- 永住権(Permanent Residence Permit): 永久で滞在できる許可。ウクライナ国内で申請する
- 移住許可(Immigration Permit): 永住権取得に必要な書類
ウクライナについて
全般
旧ソ連の国で、地理的にはロシアの南西にあり、黒海に面しています。
日本人にとってはそこまで馴染みの深い国ではありませんが、歴史があり文化的にも豊かな国です。日本人にとってはロシアのものと思われがちなボルシチやコサックダンスなども、実はウクライナ発祥のものです。
ウクライナ出身の有名人としては、スポーツだとサッカーのシェフチェンコ、ボクシングのクリチコ兄弟、少し昔だと棒高跳びのブブカとか、芸能関連だと女優のミラ・ジョヴォヴィッチあたりが有名でしょうか。
政治: ロシアとの紛争、親 EU
ウクライナ領だったクリミア半島ですが、2014年のクリミア紛争でロシアに併合されてしまい、ロシアとは緊張関係にあります。
一方、旧ソ連ではあるものの近年は親 EU であり、現政権は EU 加盟を希望しています。
EU 加盟が承認されれば・・・?
今回紹介したIT技術者向けの永住権を扱った他サイトの日本語記事においても、
「仮に EU 加盟が承認されれば、EU 加盟国の永住権となり、他国への移住もしやすくなる」
といった事を書いているものが多く見られます。
これについては半分正しくて半分誤りという感じですし、実際に加盟が承認された後に移住関連の制度がどう整備されるかにもよると思います。
他のEU諸国と同様の制度が作られるのであれば、今回の永住権を使ってウクライナに5年間居住した後であれば、EU 長期滞在者の申請が可能となるはずです。EU 長期居住者に関しては以下の記事をご参照下さい。
IT に力を入れている
そもそも、今回の IT 技術者向け永住権制度の導入ですが、ウクライナは国として IT に力を入れていて、エストニアのような IT 立国を目指しているとも言えます。
また、安価な労働力を背景に、先進国向けのソフトウェア開発企業などは元々それなりに多かったのですが、IT 技術者向け永住権制度により今後は IT 分野はさらに伸びていきそうです。
投資
2014年の紛争以降ウクライナへの投資が減っており、経済も低迷しています。また、ウクライナの通貨フリブニャも大きく低下しました。
一方、IMF の支援などにより徐々に経済は回復しており、IT 分野の成長などの明るい材料もあります。また、前述の通り、仮に EU への加盟が決まれば、経済的にも大きなプラス材料となります。
ある程度お金を持っている富裕層であれば、ハイリスク・ハイリターンな投資として、ポートフォリオの一部をウクライナへの投資に割り振るのもアリだと思います。
なお、ウクライナには投資で永住権を取得出来る制度もあるので、興味のある方は以下をご参照下さい。
まとめ
ウクライナの永住権は、IT 技術者であれば比較的簡単に取得出来ますし、滞在義務もありません。
ウクライナはロシアとの紛争を抱えており、経済的には貧しい国と言って良いと思いますが、長い歴史と豊かな文化を持ちますし、国として IT に力を入れているため、潜在能力は結構高いかもしれません。また、将来的に EU への加盟が認められれば、一気に大化けする可能性もあります。
当面は移住する気が無くても、こうしたウクライナという国への足がかりとして、本永住権の取得をするというのは検討すべき選択肢だと思います。
補足: 私自身も取得手続き中です
私自身、IT 関連の企業をやっているので本ビザの対象に入っています。現在、ウクライナの弁護士事務所と共に取得手続きを進めています。体験談は以下のリンクよりどうぞ。
取得鉄尽く中に新しい情報が入ってきたら、随時本記事に反映させます。